大腸の粘膜に何らかの原因で炎症を引き起こし、びらんや潰瘍を形成する病気です。びらんとは、皮膚や粘膜の表面にできた、ただれた皮膚異常の状態を言い、潰瘍とは、 皮膚・粘膜層において、上皮組織の部分的欠損が深部に及んでいるものを言います。 簡単にいえば傷が深くえぐられたような状態のことで、浅い場合にはびらん、クローン病ではさらに深い組織まで炎症や潰瘍ができます。
病変部は直腸からS字結腸、下行、横行、上行結腸へと連続的に広がりますが、非連続的に広がる区域性の場合もあり、個人差が激しいのがこの病気です。 軽症で過ごし続ける方や、あっという間に大腸を全部取ってしまう方や様々です。
今日、色々な治療が開発されてこの病気をコントロールし易くなってきていますが、まだまだ原因の解明には至ってません。
この病気は特定疾患に指定されていて、医療費の助成が各自治体から受けられます。
発症年齢が20歳前後に多いのが特徴ですが、若年者から高齢者まで発症します。年々患者数が増え、平成14年度で7万人を超えていて、年間5000人ずつ増えているようです。
◆病態の分類
潰瘍性大腸炎は以下のように分けられます。
臨床的症状による分類 | ||
軽 | 重 | |
1,排便回数 | 4回以下 | 6回以上 |
2,血便 | なし | あり |
3,発熱 | なし | 37.5度以上 |
4,脈拍 | 正常 | 90/分以上 |
5,ヘモグロビン | 正常 | 10g/dl以下 |
6,血液沈降速度 | 正常 | 30mm/hr以上 |
1〜6全てが軽に当てはまる場合は軽症。
1と2があり、ほか4項目のうち2つ以上当てはまる場合が重症。 軽症と重症の間が中等症。 重症以上になると劇症とされる。 |
病状の広がりによる分類 | |
直腸炎型 | 直腸のみに病変があるタイプ。 |
左側大腸炎型 | 横行結腸の真ん中から左側に病変があるタイプ。 |
全大腸炎型 | 全結腸に病変があるタイプ。 |
右側または区域大腸炎型 | 右側あるいは飛び飛びで病変があるタイプ。 |
病期による分類 | |
活動期 | 血便があり、内視鏡的に血管透見像の消失、易出血性、びらんや潰瘍などがある状態。 |
緩解期 | 病的症状が無く内視鏡的に良好な状態。 潰瘍性大腸炎は現状では完治しない病気なので、完治と言わず緩解と言い、再発と言わず再燃と言う。 |
臨床的経過による分類 | |
再燃緩解型 | 再燃と緩解を繰り返す。 |
慢性持続型 | 六ヵ月以上活動期にある状態。 |
急性激症型 | 急性激症型(急性電撃型)はきわめて激烈な症状で、中毒性巨大結腸症、穿孔、敗血症、などの合併症を伴うことが多い状態。 |
初回発作型 | 発作が1回だけのもの。が再燃をきたし、将来再燃緩解型となる可能性がある。 |
◆初期にはどんな症状が出るか
初期の段階では下痢が主で、徐々に回数が増え、便に血が付いていたり混ざったりしてきますが、突然そのような症状が現れる事もあります。大体1年前から半年前から下痢になる回数が増えてきたり、その前には透明な粘液が出たりします。またその頃には自然に症状が消え良くなったりもします。
◆悪化するとどうなるか
初期を過ぎ悪化すると、便が真っ赤になるくらい下血が増え腹痛も伴ってきます。1日に4回〜6回以上トイレに通う事になり、ほとんど血のような血便になります。そうなると体の血液がどんどん失われ貧血が進み、ちょっとした階段の昇降等で目眩や息切れ、動悸が激しくなります。さらには発熱し高熱も出るようになり食欲も失せ、全身症状が悪化します。もうこうなったら即入院、即輸血が必要です。高齢者なら心不全を起こす危険性があります。
健康な粘膜。 大腸のヒダもあり、毛細血管も透けてみえてます。 |
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潰瘍性大腸炎の粘膜。 一目瞭然ですね。 |
健康な大腸。 |
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潰瘍性大腸炎。 潰瘍の凹みにバリウムが溜まっている様子。 |
◆内科的治療
初期段階で病勢も強くない軽症の時は整腸剤やペンタサ(5-ASA製剤)やサラゾピリン(サラゾスルファピリジン)で回復するでしょう。ペンタサは1日9錠までですが、クローン病では12錠までが上限です。中等症以上になると入院して絶食し、中心静脈(心臓の近くにある太い静脈)にカテーテルで高カロリーの点滴をするIVHが必要になります。薬物ではステロイド(副腎皮質ホルモン剤)投与が必要になります。強い抗炎症作用と抗アレルギー作用、免疫抑制作用で病気を押さえ込みます。ステロイドの治療では基本的にプレドニンやプレドニゾロンを経口で投与します。最大投与量は、体重X1〜1.5mgで一般的成人男性で60mg、女性で40mgです。ステロイドは重い副作用が多く現れるので最大量を長い期間使えません。ステロイド療法は必ず医師の判断が必要です。経口でペンタサやプレドニンを投与する以外に以下の治療方法があります。
サラゾピリン坐薬 | サラゾピリン坐薬はサラゾピリンの、リンデロン坐薬はステロイドの坐薬です。いずれも直腸の患部に有効です。体内への吸収が少なく、副作用が現れにくいとされています。 |
リンデロン坐薬 | |
ペンタサ注腸 | ペンタサの注腸剤です。 |
ステロネマ注腸 | いずれもステロイド系の注腸剤で、直接患部に働きかけます。一部は体内に吸収され間接的に効きます。副作用は現れにくいとされていますが、結構出る様です。プレドネマよりもステロネマの方が効き目が強いです。 |
プレドネマ注腸 | |
イムラン | いずれも免疫抑制剤です。ステロイドに耐性を示している場合やステロイドを減量できない時に併用して使います。イムランやロイケリンなどは効果がゆっくりで2ヶ月くらいしないと効果が見られな様です。シクロスポリンは速効性があり、ステロイドが効かない重症の患者に使用されます。いずれも副作用があり特にシクロスポリンは効果が強い反面、重い副作用が現れ易いです。 |
ロイケリン | |
シクロスポリン | |
ステロイド強力静注療法 | これはステロイドを40〜80mgを4回に分けて5日間静脈へ注入する療法です。1週間から10日くらいで効果が現れます。これが効かなければオペの適用になってきます。 |
ステロイド動注療法 | これは鼠径部(太もも付け根)から動脈にカテーテルを挿入して朝刊を取り巻く上腸間膜動脈や下腸間膜動脈へ直接ステロイドを注入する療法です。強力静注療法より早く効果が現れます。施術後は12時間から24時間絶対安静でベッドから動けません。これが効かなければオペ適用になります。 |
ステロイドパルス療法 | これはメル・ソドロールというプレドニゾロンの1.25倍効力のある薬剤で、1日1000mgを3日間点滴で投与する療法です。 |
G-CAP(アダカラム) | いずれも透析の様に血液を体外のろ過し、体内に戻すというものです。潰瘍性大腸炎は自己免疫疾患でもあるのでその炎症の元になっている免疫細胞を取り除く治療です。ろ過する成分はG-CAPで顆粒球・単球を、L-CAPでは顆粒球・単球・リンパ球を除去します。有効率は60〜80%くらいのようです。 |
L-CAP(セルソーバ) | |
紫苓湯(漢方薬) | 病院で処方してもらえます。抗炎症作用、免疫調整作用があります。ステロイドを減量する為に併用して使われる事が多いようです。 |
ATM療法(治験中) | ATM療法(抗菌剤多剤併用療法)とは、順天堂大学医学部附属病院消化器内科の大草敏史医師が中心となって行われている治験(臨床試験)です。根本的な治療法でフソバクテリウムという嫌気性菌を除菌するものです。有効率がかなり高いようです。 |
以上が潰瘍性大腸炎の主だった治療法です。
ほとんどがステロイド療法を軸にふたつ以上を組み合わせて治療効果を高めていきます。
◆外科的治療
内科的治療では良くならず、中毒性巨大結腸症など合併症を引き起こした場合やステロイドの副作用や入退院を繰り返し、QOL(生活の質)の低下が著しい時などオペ適応になります。オペにはIACA(回腸嚢肛門管吻合)、IAA(回腸嚢肛門吻合)があり、回腸嚢とは小腸の末端で作成した便をためる嚢の事で、いずれもオペ時の体の状態により3〜1期に分けて行います。今はほとんどが1〜2期のオペですが、緊急時やステロイドをかなり大量に使っていたり全身の状態が悪く長い時間オペに耐えられそうにない時など3期で行います。2期と3期の場合、一時出来に人工肛門を付ける事になります。人工肛門(以下ストーマ)とは小腸(大腸は無いので)の末端2〜3cmをヘソの横10cm辺りの所から出して、そこから排泄する為の物です。その為ストーマのケア方法を覚えなくてはなりませんが難しいものではありません。ただ中には自分のストーマに触れない方も居るようです。因みに触っても痛くはありません。
術式 : IACA 肛門管を残してJポーチ(回腸嚢)を吻合します。肛門周辺には触れないので排便機能が十分のままです。 |
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術式 : IAA 歯状線ギリギリの所まで粘膜を切除して吻合します。直腸粘膜が残らず再燃や癌化の可能性は限りなく無くなります。 IAAはIACAに比べて漏れやすいと言われていますが、あまり差はないようです。 |
以上が最も一般的で完成度の高い術式です。他にも直腸を残したIRAや開腹しない腹腔鏡下手術、小腸の末端部分を上下反対にしてJポーチを作成するTITP法があります。
術後の排便回数は10回以上行く事になりますが、一般的に2ヶ月〜半年くらいで6回前後に落ち着きます。これくらいなら苦になりません。最初は肛門の奥に痛みが生じる事もありますが、それも次第に無くなります。一番漏れやすいのは意識のない睡眠時で、パッド等を当てて置くのが良いですが、紙オムツが一番安心できるでしょう。覚醒している間はほとんど漏れる事はありません。
◆合併症
合併症には以下の物があります。合併症は全身に広がりますので、消化器の医師だけでは難しくなります。
腸管合併症 | |
穿孔 | 潰瘍が深部まで進み穴が開いてしまいます。 |
狭窄 | 腸管内部が狭くなり内容物が通らなくなります。 |
瘻孔 | 潰瘍が深部魔で進み、腸壁と隣接する臓器や小腸・大腸などの間に痛路ができてしまいます。 |
中毒性巨大結腸症 | 大腸内に毒素やガスが溜まり風船のようにパンパンに膨れ、全身に中毒症状が出ます。 |
穿孔や中毒性巨大結腸症になると緊急でオペになります。
その他、病歴が長くなるとともに癌化の可能性が高くなります。 |
腸管外合併症 | |
虹彩炎 | 黒目の中に炎症が起きます。失明する事があります。 |
壊疽性膿皮症 | 皮膚に潰瘍が出来ます。おもに、下肢部分に、紅い斑点(紅斑)や結節、水泡などができ、急速に潰瘍化し、骨が見えるほど皮膚が壊死を起こしてしまうことがある。 |
結節性紅斑 | 下肢部分に紅い斑点がみられるようになります。斑点は、ひざから下の前面に、左右対称に現れることが多く、押すと痛みます。発熱、関節痛などをともないます。 |
他、甲状腺機能亢進・肝機能障害・膵炎など様々な合併症が起こる場合があります。 |